金属加工における熱処理の種類と特性
金属加工における熱処理とは、金属材料に熱を加えたり冷却したりすることで、機械的性質(硬さ・強度・靭性など)や内部構造(組織)を調整する加工方法です。以下に主要な熱処理の種類とその特性をわかりやすく解説します。
弊社では金属の加工から熱処理、研磨、表面処理まで対応いたします。
🔥 主な熱処理の種類と特性
種類 | 特徴・目的 | 主な効果 | 代表例 |
---|---|---|---|
焼入れ(Quenching) | 高温加熱後、急冷(通常は水や油) | 硬度アップ、耐摩耗性向上 | 工具鋼、歯車、シャフト |
焼戻し(Tempering) | 焼入れ後、適度に再加熱して冷却 | 脆さを和らげ、靭性(粘り)を付加 | スプリング、刃物 |
焼なまし(Annealing) | ゆっくり加熱後、ゆっくり冷却 | 軟化、加工性向上、内部応力除去 | 深絞り材、板金部品 |
焼ならし(Normalizing) | 高温加熱→空冷 | 組織の均一化、加工性・強度のバランス向上 | 鋳鋼、鍛造品 |
時効硬化(Aging / Precipitation hardening) | 特定温度で長時間保持 | 合金元素の析出による硬化 | アルミ合金、チタン合金 |
浸炭焼入れ(Carburizing) | 表面に炭素を浸透→焼入れ | 表面硬化・内部靭性保持 | ギア、シャフト |
窒化処理(Nitriding) | 表面に窒素を拡散(低温) | 高硬度で耐摩耗性アップ、変形少 | 金型、航空部品 |
調質(Quenching and Tempering) | 焼入れ+焼戻しのセット | 強度と靭性の両立 | 構造用鋼(SCM・S45Cなど) |
🧪 用途ごとの熱処理の選び方(例)
用途 | 推奨される処理 | 理由 |
---|---|---|
高強度が必要(ボルト・シャフト) | 焼入れ+焼戻し(調質) | 靭性を維持しながら高強度化 |
表面硬さが重要(歯車など) | 浸炭焼入れ、窒化処理 | 表面耐摩耗性向上、芯部は靭性維持 |
切削性・加工性向上 | 焼なまし | 軟らかくして加工しやすく |
アルミ部品の強化 | 時効硬化(T6処理など) | 精密機械・航空機分野で使用 |
📌 注意点・管理ポイント
-
材質ごとに最適な処理が異なる(例:炭素鋼は焼入れ可だがステンレスは要注意)
-
冷却方法(急冷・空冷)により性質が大きく変わる
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寸法変化やひずみのリスクあり → 仕上げ加工との順序に注意
-
処理後の硬度測定やマイクロ組織の確認が品質管理に重要
✅ まとめ
加工目的 | 選ぶ熱処理 |
---|---|
硬くする | 焼入れ・時効硬化 |
粘りを持たせる | 焼戻し・調質 |
柔らかくして加工性を上げる | 焼なまし |
表面を硬く、内部は靭性保持 | 浸炭・窒化 |
金型や工具部品は、非常に高い耐摩耗性・高硬度・熱変形に対する安定性が求められるため、熱処理も非常に重要かつ特殊なものが用いられます。以下に、金型・工具鋼に特化した熱処理方法とその狙いをまとめます。
🔩 金型・工具部品に特化した熱処理方法
熱処理方法 | 対象材質 | 特徴・目的 | 用途例 |
---|---|---|---|
焼入れ+焼戻し(調質) | SKD11、SKD61、SKH51など | 硬度確保と靭性のバランスをとる | プレス金型、ホットスタンプ金型 |
真空焼入れ | SKD11、SKD61、HAP、粉末ハイス | 酸化や変形を抑え、精密な熱処理 | 精密金型、モールド金型 |
窒化処理(ガス窒化・イオン窒化) | S45C、SKD11、NAK材など | 表面硬化+変形少、仕上げ後でも処理可能 | モールド型、射出成形型 |
TD処理(トリモジュール処理) | SKD11、SKHなど | 表面に高硬度のTiC層を形成、摩耗・焼付きに極めて強い | 冷間鍛造型、パンチ部品 |
浸炭焼入れ | SCM系鋼(SCM415、420など) | 表面のみ硬化、芯部の靭性保持 | プレス用の大型金型部品 |
サブゼロ処理(深冷処理) | SKD11、D2など | マルテンサイトの安定化、耐摩耗性アップ | 高精度パンチ、ダイス |
PVD・CVDコーティング(表面処理) | 熱処理後の金型 | TiN、TiCN、AlCrNなどの膜で摩耗や溶着を防止 | プレス金型、射出成形部品 |
🧪 材質別 熱処理の例
材質 | 主な用途 | 処理例 |
---|---|---|
SKD11(冷間工具鋼) | 冷間プレス金型、パンチ | 真空焼入れ+サブゼロ処理+焼戻し(2回) |
SKD61(熱間工具鋼) | ダイカスト金型、熱間鍛造型 | 真空焼入れ+高温焼戻し(600℃前後) |
NAK55/80(プレハードン鋼) | 射出成形型、電子部品用金型 | ガス窒化、イオン窒化など表面処理中心 |
粉末ハイス(HAP40など) | 微細パンチ、精密工具 | 真空焼入れ+多段焼戻し+コーティング |
✅ 金型向け熱処理で重視すべきポイント
項目 | 理由 |
---|---|
変形を抑える処理条件(真空、低温) | 寸法精度が重要なため |
表面硬化処理と芯部靭性のバランス | 硬すぎると欠け、軟らかすぎると摩耗が進む |
焼戻し回数と温度制御 | 応力除去と安定性確保のため焼戻しを2回以上行うのが一般的 |
コーティングとの組み合わせ | 摩耗対策・離型性向上などの複合効果を狙う |
🔧 事例:SKD11金型部品の熱処理フロー(例)
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粗加工後:焼きなまし or 焼準(機械加工性向上)
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仕上げ直前:真空焼入れ(1030℃前後)+サブゼロ処理(-80℃)+2回焼戻し(550℃程度)
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仕上げ加工後:PVDコーティング(TiCNなど)で寿命延長
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